運動神経の良い子どもに育てたいと思って、スポーツ教室に子どもを通わせる親は多いです。一方で、運動神経の悪い人だと、「自分の子どもならいくら練習しても限界があるのでは?」と遺伝を心配することもあるでしょう。
確かに、特に練習などしなくても何でもそつなくこなせるような生まれつき運動神経が良いとしか思えない子どももいます。そういう子どものことを、「運動神経が良い」などと言いますが、本当に遺伝によって運動神経やセンスが決まるのでしょうか。
実は運動神経と遺伝はあまり関係ありません。プロのスポーツ選手でも子どものころ特に優れて運動神経が良いと言われなかった人もたくさんいます。そこで、どんな子どもでも運動が得意になる秘密を探ってみることにしましょう。
[mokuji]運動神経は遺伝しない!環境が大切
運動神経に遺伝はそれほど重要な影響を及ぼすわけではありません。それより大切なのは環境です。
運動に苦手意識を持つ親だと、積極的に子どもとスポーツなどを楽しむ機会が少ないため、子どもも運動する機会をあまり持てないまま苦手意識を持って育ってしまうのです。
ですので、両親が運動が苦手だとしても、子どもに小さいころから運動に親しむ機会と環境を与えてあげれば、運動が得意な子に育つ可能性があります。
運動する環境を与えるといっても特別なことをする必要はありません。鬼ごっこや木登りなど昔ながらの外遊びをたくさん経験させてあげれば大丈夫です。子どもはそうした遊びを通じて体力、持久力、判断力などを伸ばしていきます。
運動をする機会や環境が減っている!文部科学省も問題視
子どもが運動する機会や環境は年々減っています。文部科学省が実施する「体力・運動能力調査」によれば、子どもの体力や運動能力は昭和60年以降ずっと低下傾向にあります。それは運動する機会や環境が減ったことが大きな原因です。
たとえば、13歳女子の持久走の結果では、最高記録をマークした昭和60年と比べて、平成12年には25秒以上も遅くなっています。持久走だけでなくほとんどのテスト項目で親世代の記録を下回っている現状です。
ただし、昔に比べて子どもの体格は確実に向上しています。平成13年の11歳男子の平均身長は、30年前の子どもより4.5cmも高くなっています。つまり、体格が向上しているのに体力や運動能力は低下しているという深刻な状況なのです。
体力・運動能力低下による子供への悪影響
文部科学省も指摘するほど、子どもの体力・運動能力の低下は深刻です。親の世代なら、自分の子ども時代と比べてみるだけでも今の子どもは体力がないと感じるのではないでしょうか。
体力や運動能力が低下すると、そもそも運動しようという意欲も起きにくいものです。そのため、すぐに「疲れた」とか「だるい」とか言う子どもが増えています。
親としても、自分が苦手だと子どもが運動しないからといってあまり強く責められませんが、将来どのような影響が出るのか心配になると思います。実際、体力・運動能力の低下はさまざまな悪影響をもたらします。どんな悪影響があるかを見ていきましょう。
肥満や生活習慣
体力・運動能力が低下すると、運動する機会が少なくなります。運動に苦手意識があれば、なるべくやらずに済まそうと考えるのは自然です。しかし、体格は昔よりずっと向上しているわけですから、運動しないと肥満や生活習慣病のリスクが高まります。
実際、文部科学省の学校保健統計調査報告書によると、1970年から2000年までの30年で、男女とも肥満傾向児の割合が増加していることがわかっています。特に男子が深刻で、年齢にかかわらず30年前より2~3倍も肥満傾向児が増えているのです。
肥満になるとそれに伴うリスクも高まります。子どもでも高血圧や高脂血症が増えていますし、将来的には心臓病や糖尿病など生活習慣病の恐れも高いでしょう。
体力低下が気力の低下にも繋がる
体力・運動能力が低下して、思うように体が動かせなくなります。自分のイメージ通りに体を動かすには、それなりの体力・運動能力があることが前提なのです。
実際、今の小学校では、体育の時間などイメージ通りに体を動かすことができないという子どもが増えています。リズムに乗って体を動かせなかったり、縄跳びやスキップができない子どもも増えています。
自分の思うように体が動かせないと、精神面にも大きな影響が出ます。自分の意思でイメージ通りに体を動かせないのは大きなストレスです。体力が低下しているのでストレスへの抵抗力も低下します。
運動神経を伸ばすなら何歳から何歳までが勝負?
運動神経は遺伝ではなく、その機会や環境で決まることがわかりました。もちろん生まれつきの骨格や筋肉の違いはありますが、それだけで運動神経が決まるわけではないことは、運動の苦手な親御さんにとって朗報です。
そうすると、「運動の苦手な親の子であってもスポーツ選手になれるかもしれない」と期待してしまいます。そういう期待を持って、子どもに幼いころからスポーツ教室や習い事に通わせている家庭も多いことでしょう。
早いうちから運動する機会が増えれば、それだけ運動神経が良くなるように期待してしまいますが、実は早ければ早いほど良いわけではなく、その年代に合った最適な運動をさせることが大切なのです。
6歳までが勝負
個人差があることは前提ですが、運動神経を決めるのは6歳までが勝負と言われています。6歳までにどんな運動を経験しているかで、成長してからの運動神経に影響があるのです。
その理由は、6歳までの時期が神経回路の発達が最も著しいからです。20歳で神経系が100%に発達すると考えると、5歳ごろには約80%に達します。11~12歳ごろにはほぼ100%、つまり大人と同じ神経回路になるのです。
運動神経を育むことは、脳の神経回路にいろんな動きを覚えさせることだと言えます。そのため、6歳までの急速に神経回路が発達する時期に、いろんな運動を経験させることは運動神経を育む絶好のチャンスなのです。
最も運動神経が伸びるのはゴールデンエイジ
最も運動神経が伸びる時期をゴールデンエイジと呼びます。スポーツが上達しやすいだけでなく、楽器の演奏など繊細な指使いが必要になる技術をマスターするのにも適した時期です。
そのゴールデンエイジが始まるのが9歳ごろであり、11~12歳ごろまでが何かを習得するのに最適な時期とされています。9歳ごろになると、子どもは自分のイメージ通りに体を動かすことができるようになります。
そのため、人の動きを見ただけですぐにそれを真似することも難しくありません。スポーツの難しいテクニックも急にできるようになることがあります。技術や運動センスが大きく伸びる大切な時期です。
ゴールデンエイジの注意点
運動神経を伸ばすのにゴールデンエイジが最適といっても、成長度合いには大きな個人差があるので注意してください。すべての子どもが9歳から運動の習得が簡単にできるようになるわけはなく、12歳を過ぎたら遅いというわけでもありません。
ゴールデンエイジは、個人差を考えてプラスマイナス3歳ぐらいの幅を見た方がよいでしょう。大切なのは大人が子どもの成長スピードを的確に判断し、適切な方法で指導してあげることです。
タイムリミットは12歳まで
神経回路の発達は12歳ごろにほぼ100%に達するため、ゴールデンエイジのリミットは12歳までと一般には考えられています。
もちろん個人差もあるため、12歳を過ぎたら遅いというわけではありませんが、体の成長度合いを見ながら、それまではさまざまな運動を経験させて神経回路をたくさん刺激できるようにしてあげてください。
一つのスポーツに打ち込むには12歳を過ぎてからでよいです。12歳以降は第二次性徴も始まり、筋肉や体格も大人っぽくなっていきます。パワーとスピードも出てくるので、専門的な技術を学ぶのにも適した時期です。
子供が運動を好きになる3つのポイント
体力・運動能力が昔に比べて低下している現代の子どもですが、それをまた向上させるにはとにかくまずは運動を好きになることが大切です。運動が好きになれば、難しい競技にもチャレンジしようという意欲が湧きます。
そこで、「とにかくたくさん体を動かす」、「小さな成功体験がカギ」、「走る・投げる以外の動きも取り入れる」という子どもが運動を好きになるための3つのポイントを解説していきます。
とにかくたくさん体を動かす
幼いうちから体を動かす習慣を付けることが大切です。幼児期など体が小さいとできることが限られますが、体が小さいからこそ色々な動きができる可能性が眠っています。普段の遊びのなかで自然と体を動かす習慣が付くように親が導いてあげてください。
小学校に入学して以降も、低学年のうちは特定のスポーツに絞る必要はありません。子どもが興味を示すものは何でも経験させてあげることが大切です。小学校低学年ならまだまだ体重が軽く体も柔らかいため、いろいろな運動にチャレンジできます。
これが高学年になって体重が増え体も硬くなってくると、チャレンジしたくても新たに始めるには非常に苦労する運動も出てくるでしょう。
小さな成功体験がカギ
子どもが小さいうちは結果にこだわる必要はありません。ちょっとずつできることが増えるのが成功への近道です。運動が嫌いになる最大の理由は、できないからつまらなくなることです。
そのため、ちょっとずつできることが増えるという小さなステップが、もっといろんなことにチャレンジしたいという意欲を起こさせ、新しい運動にも積極的に取り組む気持ちにつながります。
ですので、難しいことに無理に挑戦させる必要はありませんし、体育の成績が悪かったとしても気にする必要はありません。たとえ小さいうちは走るのが遅かったとしても、もっと後で一気に速くなる子どももいます。
走る・投げる以外の動きも取り入れる
運動やスポーツといえば、走ることと投げることばかりに注目しがちです。もちろんサッカーなど投げるのではなく蹴ることに注目するスポーツもあります。
しかし、ここで言いたいのは、特定の動きに固定するのではなく、さまざまな動きを取り入れることの大切さです。走る、投げる、蹴る以外にも、打つ、捕る、泳ぐ、登る、ぶら下がる、這うなど、全身を使う運動はいろいろあります。
特定の動作に偏らないように、いろんな動きができるように子どものする運動を工夫してあげてください。そうやって自分のできることを広げていくと、チャレンジできる可能性も大きく広がります。
時期別に運動神経を良くするおすすめの運動&習い事
歩く、走る、投げるなど基礎的な動作ができるようになる幼児期から、小学校に入学してさまざまな運動を経験し、本格的にスポーツを始めるまで、子どもにはその時期ごとに適切な運動を経験させてあげることが大切です。
子どもに適切な運動を経験させることは、運動神経の発達だけでなく、脳の発達にもつながりますし、他人と協力して行動するための協調性を学ぶことにもつながります。
そこで、子どもの年代別におすすめしたい運動や習い事について見ていきましょう。すべてにチャレンジする必要はありませんが、子どものうちは、なるべくたくさんのスポーツを経験させてあげるようにしましょう。
幼児期
幼児期は、自分のイメージ通りに体を動かすために基礎的な動きを覚える時期ですが、本来好奇心が旺盛な時期なので無理に習い事をさせる必要はありません。走ったり、跳んだり、ボールを投げたりといった基礎的な動きは遊びで学んでいきます。
そのためには外遊びが大切です。特定のスポーツをするよりも、公園でボール遊びをしたり、鉄棒にぶら下がったり、ブランコを漕いだり、木登りをしたりするうちに神経回路が刺激されて運動神経も良くなっていきます。
もちろんお父さんお母さんの役割も重要ですので、お父さんと相撲を取ったり体をよじ登ったり親子のスキンシップを大切にしましょう。休日はお父さんお母さんも一緒になって公園で子どもと鬼ごっこをするなどが理想です。
おすすめの習い事
何か習い事をさせたいのであれば、スイミングがおすすめです。泳ぐことは全身運動であり、ふだんの生活ではしない動きをすることでいろんな筋肉が刺激されますし、呼吸器系の発達にもつながります。
実際、ごく幼いころから水泳に親しむ子どもたちもたくさんいて、大きくなってから水を怖がるようになるのを防ぐ意味でもおすすめです。
小学校低学年
小学生でもまだ低学年のうちは、一つのスポーツだけに打ち込むのはおすすめしません。同じ動きばかり反復するより、さまざまな動きを体に覚え込ませることが大切です。
それに、まだ低学年では呼吸器系や循環器系が十分に発達していないため、長時間の運動は体のためにもよくないでしょう。その意味では幼児期と同じくスイミングはおすすめです。呼吸器系・循環器系の発達が促されます。
小学生なら社会のルールも学んでいかなければいけない時期ですから、他の子どもたちと一緒に楽しめるルールのある運動で集団生活に慣れていくことは大切です。学校生活でもそれは学べますが、学校以外の子どもたちとも交流するのはプラスになります。
子供のやりたいことを優先させる
もし、子どもの方から何かスポーツをやってみたいというのであれば、それをやらせてあげるのがいちばんのおすすめです。テレビで野球やサッカーを見て興味を持ったのなら、リトルのチームに入るのもよいでしょう。
「友達がやっているのを見て楽しそうだから」という理由でもかまいません。スポーツ教室や習い事をいくつもやらせるのはお金がかかるかもしれませんが、子どもがやりたいというものはなるべくやらせてあげることが大切です。
小学校中学年
小学校も3~4年生になると、これまでの遊びや運動で覚えたさまざまな体の動きを生かして複雑なスポーツにもチャレンジできるようになります。ただ、親が無理に一つのスポーツに絞らせることはしてはいけません。
たとえ将来プロ野球選手にしたいとしても、まだこの時期の子どもはさまざまなスポーツを経験してあらゆる方向に運動神経を伸ばしていくことの方が大切です。
体が出来上がっていないうちから特定のスポーツ一筋で練習していると、野球肩やテニス肘などの弊害にもつながります。
8~9歳になればそろそろゴールデンエイジの始まりですから、この時期をいかに過ごすかが将来の運動神経を決めると言ってよいでしょう。難しい動きでも短期間で習得できる時期ですし、それを生かしていろいろなスポーツが楽しめるようになります。
ですので、親が強制するのではなく、子どもに機会を与えて子どものやりたいということなら、球技でも格闘技でもなるべく多くのことにチャレンジさせてあげられるようにしましょう。
小学校高学年
高学年にもなれば子どもの自我もできていますから、親が強制して何かをやらせるというような時期を過ぎています。子どもがやりたくないというのに無理にスポーツ教室に通わせるのは意味がないですし、子どもがますますスポーツを嫌いになるだけです。
ただ、子どもが興味を持っているのなら何でもやらせてあげるべきです。小学校の野球やサッカーのチームなら、すでに低学年からやっている子たちが大半で、高学年から始めても付いていけないかもという不安があるかもしれません。
機会と環境を作るのが大切
スポーツチームに途中から入った場合、最初は技術的にも精神的にも周りの子どもの方が進んでいると感じることはあります。
しかし、周囲の子どもたちも途中から入ってきた子のことをサポートしてくれるものですし、チームとして楽しんでスポーツに取り組んでいくうちに、自分でも上達を実感して勝手にのめり込んでいくこともあるでしょう。
大切なのは、親は子どもの関心を優先し、機会と環境を存分に与えてあげることです。親のエゴで子どもを縛ることのないように、それだけは注意してください。
複数のスポーツを同時に習い楽しむのがベスト
小学生のうちは一つのスポーツに絞る必要はありません。子どもがやりたいのであれば、1日体験なども利用してできるだけ多くのスポーツを経験させてあげましょう。
親が子どもをプロスポーツ選手にしたいからといっても、幼いころから一つの競技に打ち込ませてスパルタで鍛えるなどはもってのほかです。
実際、プロアスリートのなかにも、小学生時代は一つの種目に絞らずに興味の向くままにいろんなことにチャレンジしていたという人は多いです。ですので、スポーツ教室に入るとしても、同時にいくつものスポーツを掛け持ちしても問題ありません。
特定のスポーツに絞るのは中学校に入ってからでも遅くないでしょう。どうせ中学の部活では掛け持ちできないことが多いので、一つに決めざるを得ないことがほとんどです。
それまでできるだけ多くのスポーツを経験させてあげて、運動神経を伸ばしつつ、スポーツの楽しさを知ってもらいましょう。
まとめ
「親の運動神経が悪いから子どもも悪くて当然」というふうに、運動神経は遺伝で決まると思っている人が多いです。しかし、実際は遺伝はそれほど関係ありません。
もちろん筋肉の付き方や骨格など生まれつきの特徴には違いがありますし、子どもによってはセンスとしか思えないような最初から何でも器用にこなす子もいます。
しかし、子どもの運動神経を決めるのは、親がどれだけ運動やスポーツに親しむ機会と環境を子どもに与えられるかにかかっているのです。
子供の興味のある運動をさせてあげるのが一番
現代の子どもたちは昔に比べて運動する機会や環境が減っています。外遊びをする子どもが少なくなったことが理由ですが、栄養状態は良いので体格的には恵まれています。
それなのに運動能力や体力が低下しているのは、体を動かす機会や環境がないからにほかなりません。20歳の成人を100%とすると、運動のための神経回路は5~6歳で80%、11~12歳でほぼ100%完成します。
つまり、その年齢までにどれだけ運動やスポーツに触れてきたかがポイントになるのです。幼いうちは一つのスポーツばかりやらせる必要はありませんし、小学生のうちも子どもの興味のままに多くのスポーツを経験させてあげれば大丈夫です。